FCAJInterview03 村上卓也さん

■Q1. 「まち」をつくる仕事についたきっかけは?

生まれも育ちも東京都内です。実は東京を一回も出たことがないんですよ!今住んでいるところは神楽坂で、祖父から続く実家です。小学校までは吉祥寺の、まさにUR団地で生まれ育ちました。転職もせず、外の支社にも行っていないので、ずっと東京にいるんですよね…。実は、父親もURの前身である日本住宅公団でした。住宅に困窮する勤労者のための住宅、宅地の供給を事業としていました。都市計画に関心をもった理由に、その影響はあると思います。
【参考】日本住宅公団
戦前に存在し、GHQによって解体させられた住宅営団(同潤会)を参考に設立された特殊法人。

大学は、「造園学科」のある千葉大学を選びました。進学先を選ぶときに、「都市計画をやりたい」と思っていました。当時、都市計画のアプローチは、政策か、建築か、土木か…という選択と言われていたんですが、ランドスケープからも取り組めることを知り、これだ!と思いました。たぶん、「環境」という社会課題への関心が昔からあって、都市計画の中でもたぶん社会課題としての「環境」の意識に近いのがランドスケープだったんだと思います。入社から10年は、大学が造園学科だったこともあり、団地や再開発事業等の都市開発の外構工事の設計、工事発注を担当しました。その後は、都市開発の計画部門を担当しています。

日下:プロフィールには、地方に赴いて課題解決などもしていると書いてあったので、てっきり地方のご出身だと思っていました!東京出身だからこそ感じることはあるんでしょうか?

村上:基本的に、まちの課題、社会課題も、弱いところに出やすいです。たとえば災害が顕著ですが、災害が起きると、今まで闇に埋もれて来た社会課題がいっぺんに出てきます。弱いところから顕在化してくるというのが常だと思うので、どうしても経済を考えると、東京のような大都市より地方の方が出てくる弱いところが顕在化するのが早いです。それが徐々に全体に広がっていくので、地方の課題の処方箋を都市近郊でも使えるのかなと思っています。

■Q2. 「まち」の魅力や個性を知るために、どんな取り組みをされていますか?

まちづくりは、現地の人が関心を持っていないと、行政がやりたいから、ということではうまく進みません。課題になっているけれど、上手く表出できていないということがあります。それを一緒になって発見してあげる、というのが大事と思っています。

これには、コツがあるわけではありませんが、基本としてそのまちの歴史的背景の調査はきちんとやります。まち割りの歴史や、昔の航空写真をならべて、どういう風にまちがつくられてきたのかは必ず考えていきます。その上で、歴史上に起きている色々な出来事、経済的な背景も含めて紐解いていきます。それをもとにまちあるきをします。そして、行政の担当の方、まちで活動されている方、来訪者などにお話をきいていきます。

■Q3. 仕事をするとき特に大切にしていることはどんなことですか?

ブランチのトップになった時、スタッフに「関わるすべての人の幸せを1%以上あげよう」と言いました。

この言葉に行きついたのは、紺野先生と初めてご一緒した仕事がきっかけでした。「新虎通り」のコンセプトを考える有識者会議で、紺野先生と共に入っておられた前野隆司先生(慶応SDM教授)から、「幸福学」について教えていただきました。お金儲けは目的ではなくて、お金を得てどういう生活をするのか、どういう仕事をするのかが大事、という考え方です。それを聞いて、何をもって「シアワセ」と感じるかは、人によって違って構わないけど、人生のたくさんの時間を費やしている仕事において、シアワセ度を上げられなくてどうするんだ!と考えるようになりました。実は、会社の先輩から「上に立つことになった時にはビジョンを持って、部下に示さないといけない」といわれた頃で、ずいぶん考えてこれを自分のビジョンにしました。

また仕事を進める上では部下にはいつも「どんな仕事も楽しくやろう」、「なるべく違う分野の人と知り合いになろう」、「自分の頭で考えよう」、の3点をお願いしています。これらは、自分がやっていてよかった、と思っていることを挙げたものです。特に2つ目は、FCAJで痛感したことでもあります。自分の仕事で普段出会うのは建設、不動産、コンサル業界という狭い業界ですが、扱っていることは「社会」という大きな事柄で、他の視点を入れず、狭い業界の中だけで議論をしても上手い解決方法が見つかりません。FCAJに参加することで本当に実感しているので、若いうちからやった方がいいと感じています。この3つのことは、トップになる前、部長時代、課長時代から言っていました。何度も伝えているから、浸透しているかどうかはわからないけど…前述の先輩から、「仕事の心構えを伝えるときは、3つ以上はダメ、5つもあったら覚えられないから」と言われていたので、ちょうどいいのかなと思っています。(笑)

■Q4. FCAJで行われた活動で、印象に残っている活動を教えてください

EMIC調査で、国内と北欧の「場」の調査に行き、置かれている環境、状況によってこんなにも変化があることを気付かされたことです。北欧の「場」、いわゆるイノベーションセンターは、割と国主導で、大きな社会課題から入っています。日本は国レベルではきちんとした「場」はなく、イノベーションセンターなどは民間が先行して設置しています。社会課題解決のアプローチはやっているものの、「自社のリソースを活かして」が前面に立ってしまいます。違いは違いのままでいいとはいえ、圧倒的に違う感じがあり、話がかみ合わなかったのは印象的でした。

FCAJは、北欧を参考にしている部分が大きいんだなというのは実感しました。一方で、「イノベーション」ということで考えると、シリコンバレーやイスラエルなどのことも考えてみるのは面白いだろうなと思います。

今、日本国内の地方都市でイノベーション特区をつくる構想をすすめている例があり、産学官が連携して社会実験をやって認知してもらおうとしている動きに関わっています。現地の方々がどこまでジブンゴトにしていけるかによるとことが大きいので、注目しています。

日下:JSTで仕事をしていても、研究者に社会実装のアイディアがあったとしても、「場」がみつけられなかったり、繋がるべき相手が誰なのかがわからなかったりするので注目したいと思います!異業種の方々と対話していく力が問われる場所ですね!

■Q5. これからの「まちづくり」への関わり方について教えてください

仕事以外の、「ボランティア」のような形でまちづくりに関わったことはありません。自宅周辺の神楽坂のエリアでは、子どもが小さい頃は、地域のサッカーチームのパパ友の関わりなどもありました。大日本印刷傘下の印刷屋さんなども多くて、印刷業の方は多かったり、水道屋さんなんかもいて、小さくても一国一城の主、という方々はとても面白かったです。

3月にURを定年退職しました。5月の半ばくらいまではあいさつ回りなどがあり、それ以降2~3ヶ月あくので、全国にボランティアに出かけてもいいなと思っています。なるだけ、仕事として関係しなかったところがいいなと思っているところです。

どうしても仕事だと、「計画論」から入ったり、「上位計画」から入ってしまいます。今のまちづくりは、そこからのアプローチでは問題が解けないだろうと思っています。まちで活動されている方が、どういう思いで活動されているか、肌身で感じてみたいです。場所は4大都市圏じゃないほうがいいな。大分、宮崎、高知、徳島、鳥取、島根…みたいな、地方都市に興味があります。英語はしゃべれないので(笑)コロナもあるし、日本で行ってないところがまだまだあるので、国内をまわってみたいです。

聞き手・記事:日下葵(JST)
記録・編集:内原英理子(BAO)
2022年4月23日(金)14時30分~15時30分オンラインZoom