FCAJ Interview09 加藤公敬さん

■Q1. デザインの道に進んだきっかけを教えてください

私がデザインを目指した理由は絵でした。小さい頃からしょっちゅう絵を描いていたようで…小学6年生の時に、母の絵を描いて市長賞を取ったことで「自分は絵が上手い!」と思いこんでしまったんです。それ以来なんとなく「デザイン」がやりたいと思っていました。でも当時デザイナーというと「何やらカッコよく製品の絵を描く人」。高校時代、文系か理系かを選択する時期に、先生からは「デザインをやりたいなら、文系の方が美術の時間が多いから文系」といわれるような時代でした。自分としては工学もやりたいとおもったので、意志を突き通して理系へ。その時文系に行っていたら、武蔵野美術大学や多摩美術大学のようなもっと感性を問われるアート系の大学に進学して、今頃皆さんにお会いしていなかったかもしれません。結局、九州芸術工科大学(現在は九州大学と統合)芸術工学部へ進学。「絵が好き、絵が書きたい、美しさに対する感覚があるんだ」という自分の想いを貫いたのが良かったのかなと思います。

 

■Q2. これまで歩んできたキャリアについて教えてください

大学卒業の時期にオイルショックが重なり、就職先がない時代でした。1年就職の時期を遅らせて富士通に入社。当時の富士通はまだまだものづくりの小さな会社でした。情報化時代に突入して、拡大するビジネス領域の広がりとともに新しいデザイン部署が次々と生まれ、富士通のデザイン組織の変遷と共にキャリアを積みました。大学では人間工学を徹底して学び、会社に入ってからは空間を勉強し、WebやUIを勉強し、経営のデザインまでたどり着きました。
 富士通からデザイン部門が独立して、自分がそこの社長になった頃が「黄金期」といえるかもしれません。会社に入社した時から、「デザイナーとして会社の中でえらくなってやる!」という思いはありましたから。でも、独立するときの説明会で、「経営の経験あるんですか!」とか「住宅ローン借りるときに富士通って名乗れないんですか!」といわれた時には、責任感で身震いしました!あんな経験はなかなかできないですし、刺激的でした。
 新しいことを始めるときは、そんな能力あるのかなと不安になることもありましたが、「新しい領域なんだから、新しいデザインで新しいイメージをつくっていけばいい!」と考えて、悩み過ぎず進んできましたね。行けといわれたところに、どんどん挑戦していった結果、デザインの領域を増やしていくことができました。デザイナーとしてシアワセだと思います。

 

■Q3. 自分の中で変化したことと、変わらないことを教えてください

自分の中に変わらずあるのは、「人」を中心に考えるという部分です。2000年に総務省から「デジタル・ディバイド解消」の通達があり(高齢者・障碍者の方がデジタル機器の普及に置いて行かれないよう、自社製品が対応できているのか点検をするようという通達)富士通でも、自社のWEBサイトが障碍者に使いやすいかを見直すことになりました。その時に、人間の認知・心理などよく勉強しましたね。「人」を理解するというのは、自分の強みだと思っています。いつも基本にあります。最近FCAJでも、社会課題の解決の前に、人の幸せの解決が先だというようにしています。DXといっても、先に技術ありきではなくて、人がこうしたいからDXをこうしましょう、という発想になって欲しいです。
自分の中で変わったのは、デザインに対する固執感でしょうか。FCAJの活動はデザインが中心にあるわけではないので、割と冷静な頭でFCAJの活動に取り組んできましたが、そうしているうちに段々とデザインに対する固執感がなくなってきました。デザインだけでなくもっと広い領域を考えればいいんじゃないか、デザインは若い人に任せて自分はデザインと他の分野との関係性について考えようかな…という心境の変化があったように思います。

 

■Q4. 自分の中で心掛けていることはありますか?

やれといわれたことは嫌がらずなんでもやることです。若手のうちは特に。そして、ただやるだけでなく完璧にする。中途半端にしないこと。やれといわれたことに、取り組む意義を感じられなかったり、疑問に思うこともあるかと思いますが、「これをやれば、こういうスキルが身につくんだ!」と意味付けをする自分なりのストーリーを作ってしまうのが良いと思います。私は、電光掲示板のドットデザインをやれと言われて、黙々と点を打つという時期がありました。5×7のピクセルでどうやって文字を表現するか、縮小しても見えるかどうかを、地道に検証して…。当時、社内で「一級ドットデザイナー」とまで言ってもらえるようになりました!

 また、「人」を理解するために、会議室やイベント会場の片づけを進んで手伝っていました。用が済むと“えらい人”はみんな先に帰ってしまいますが、自分は誘われても行かずに、「まだ次までに時間あるから」と言って最後まで片づけを手伝うんです。片付けが終わって会議室の鍵を閉めるときに、担当の方がふと本音を言う、そこに真実があったりします。結局最後は人と人ですよね。かつて富士通の社長も、現場、現物、現人という「三現主義」を掲げていました。ちなみに、この三現主義を理由に、けっこう出張申請を通していましたよ、「行って、見て、現場の人と話してこなくては!」ってね(笑)

 

■Q5. デザインはどのような力を持っているのでしょうか?

デザインの機能は分かりやすく伝えることだと考えています。伝えているつもりでも、全然伝わっていない、伝えた相手がわかってなければ意味がありませんから。私は富士通デザイン社長時代に、経営会議で使う資料作成のために今取り組んでいること(先行研究、手掛けている製品・ソフトウェアなどなど…)を、図・画像中心でわかりやすくまとめた資料を作っていました。社員同士、他の部署が何をしているのか知らないことも多いので、図や画像にすると内部の人も経営者もわかりやすくて重宝してもらえました。デザイナーの職能であり特権なので、やった方がいいと思っています。

 

■Q6. FCAJでこれからやりたいことを教えてください

これから、「デザインマネジメント4.0」を作るために紺野先生や関係者と議論をはじめています。そのベースとなるものが、FCAJですすめている3つのことです。

 まず、【目的工学】。目的は与えられるものであることが多いですが、目的をきちんと問い直してデザインをしていこうという学問です。2つめは【デザインの思考】。デザイン思考ではなく【デザイン思考】です。現代では、事実や課題もわからない中トライする思考が求められている中で、「アート思考は問題発見、デザイン思考は問題解決」などといわれています。でも、【デザイン思考】であれば、デザインにも問題発見ができると考えて「の」を表記して区別しています。3つめは【ソサエタルデザイン】。社会の仕組みをデザインすることです。今の日本では、女性にまつわることを男性が決定するために女性の意思が反映されない…という社会のねじれがあります。女性のことを決めるところに女性がいる、というのが当たり前になること、それも社会の仕組みのデザインです。

 ぜひ、若手の方にも議論に入ってもらいたいです。「三現主義」で構想の場に来てもらえたらと思います。