FCAJ interview14 紺野登さん

Q1. 現在の研究のテーマを探求されるようになったきっかけや背景は?

(川原吹)幼少期に関心があったことなど覚えていますか?スポーツとか、文化とか…

(紺野)「アート」ですね。あえていうと幾何学が好きでした。幼稚園の時のことを鮮明に覚えてるんですが、先生がなにか問題を出した時に、パッと立ってチョークで黒板に図を描いて驚かれたんです。他には、「演劇」が好きでした。劇に出たり見たりするのが好きだったんですよ。前に出て試すというのが楽しかったんでしょうね。アメリカに留学していた高校時代に、ミュージカルに参加した経験もあります。

 中学校の時も幾何学が好きで、ユークリッド幾何学のテキストがあるでしょう?あれがとても好きで得意でした。大学の学部を選ぶときには、理系に進むとは決めたものの、数学科か、建築科か、物理科か、どれにしようかと思っていた中で建築を選んだんですが、幾何学から立体的に見る、みたいなことに関心が向いたのだと思います。

Q2.建築学科から現在の知識経営という方面に変わっていった転換点で、どんな決断をされたのでしょうか?

 そもそも、自分の性格として、優柔不断です。ただ、何か違う方向に行くと、本能的にむかむかするんです。どうしてなのかはわからないんですが。そういう時は代替案を考えるわけですが、自分で決められないから、人に相談するんです。そうすると、おもしろいこと言ってくれる人がいるわけですよ。「これだ!」といわれたら、それをやる。だいたいそのパターンでここまで来ました(笑)。大学の学科を選ぶ時も、先輩に相談して「数学はそんなに甘くないぞ」という言葉を参考に建築学科を選んだし、就職する時は、OB訪問で電通に行った建築の先輩に話を聞いて、広告代理店という選択もおもしろそうだ、と博報堂に就職を決めました。博報堂在籍時に、このままじゃダメだと感じて方向転換しようという時には、野中郁次郎先生に相談しました。本能的かもしれないけど、自分の中に答えはないんですよ。だから、ターニングポイントで「決断してない」です(笑)。相談した相手が「こうしたら」といってくれるのをまず真に受けてみるんです。

Q3.たくさんの選択肢のある現代、どうやって「選択」していけばよいでしょうか?

(川原吹)今は選択肢が多いので、自分の先々のキャリアをどのように選択したらいいか悩ましいです。
(紺野)大変ですよね。決断を間違えたらコケるし、後悔もするでしょう?でも、あの人が言ったんだから、まぁいいか、って。そういう感じ。ダメだったら他の選択肢をとればいい
(川原吹)楽観主義というか、気が楽というか、次のチャレンジに行きやすい気がします。(紺野)野中先生に相談した時に、たくさんの学者を紹介していただき、研究の一環として会社の出張費で著名な学者に直接会いに行くという武者修行をしました。これが良かった。マイケル・ポーター、ヘンリー・ミンツバーグ、ゲイリー・ハメル、フィリップ・コトラーなど、有名といわれている学者の講演を直接見に行ったり、会って話をしました。よく人が「あの人はやめた方がいいよ」なんていうじゃないですか。そういう時こそ直接会いに行くんです。会ってみると全然違う。「すごいぞ」といわれてる人も、会ってみると「なんだこいつ」(笑)という時もあります。
(川原吹)まずはやってみる、とか会ってみる、というのは大切にしたいなと思いました。

【参考】マイケル・ポーター (Wikipedia)
アメリカの経営学者(1947年-)ハーバード大学経営大学院教授。企業戦略や国際競争など、共創戦略に関する研究の第一人者として知られる。
【参考】ヘンリー・ミンツバーグ (Wikipedia)
実践を重視し、芸術的要素・右脳的要素を持ち合わせた経営学者(カナダ、1939年-)【参考】ハメル・ゲイリー (グロービス 参考ページ)
ロンドンビジネススクール客員教授(1954年-)。コンサルティング会社やマネジメント理論と実践を調査する非営利団体を設立。コアコンピタンスを中心とした戦略の革新を説く。著書“Competing for the Future(邦題『コア・コンピタンス経営』)”
【参考】フィリップ・コトラー(Wikipedia)
アメリカの経営学者(マーケティング論)(1931年-)。現代マーケティングの第一人者として知られている。

Q4..20代でやっておいたほうがよいと思うことはなんでしょうか?

 直観を大事にしないといけないんですが、現実を見ないと直観でも妄想で終わってしまいます。妄想で終わらせないためには「直接」体感することが大事です。例えば、直接人に会う、ということを重ねてくると、だんだん人を見る目ができてくるように感じる。どんな「偉そう」にしている人も、虚勢を張ってるだけの人かどうか…といったことが直観的に見えてくるようになります。直接人に会うというのは、直観を客観的に鍛える訓練だと思ってもいい。僕はその頃はもう30代の初めだったので、「20代でなければいけない」とは言いません。若いうちにいろんな人に直接会うのは大事です。

 もうひとつは、20代のうちに、自分が起業するときのアイディアなど、おもしろい構想をたくさん作っておくことです。「在庫」として。イノベーションのアイディアが生まれるのは、だいたい20代なんです。20代がよくて30代がダメということではないのだけど、20代のうちに考えたアイディアを持っている人が後で起業するんです。20代のうちにいろんなところに首を突っ込んで興味を持ち続ける。そうすると、10年20年経った後、もうイノベーションとか、新しいアイディアがでてこないな、というときに、20代の頃考えていたことが結びついたり、考えが戻ってきたり、組織と出逢ったり、同じような考えを持っている人と出逢ったり、それがまた花咲くことがあるんです。

(川原吹)目の前の仕事をつい優先してしまいますが、いろんなアイディアを想像することは今のうちにやっておいた方がいいんですね。
(紺野)やっておいた方がいいですね。そういう時間を、わざわざでもつくった方がいい。海外に行く、旅行に行く、自分の趣味をやる、そういうところに積極的に投資した方が良いです。

 日本の場合は、若い人が非常に抑圧されているんです。今の若手社会人の世代をZ世代といいますね。1993年頃から2010年頃生まれの方といわれてますけど、世界の人口比率でいうと30%くらいなんです。ところが少子高齢化の進む日本だと16-7%しかいない。なんと、世界標準の半分しかいないんです。これからの未来をつくるぞ、という世代が、日本ではマジョリティになれないんです。これは相当損してますよ。みんな税金は年寄りの政策に使われて、若い人がもっと騒ぐべきなのにデモもできない。海外の方がいい、といっているわけではないのです。でも、どんどん海外に出て、世界の状況を体感したほうがいいということです。