FCAJ interview13 石川貴之さん

■Q1.「都市計画」の道に進んだきっかけを教えてください

地元は山口です。祖父が大工で、祖父が自らの手で親戚の家を建てていく風景を間近で見て育ちました。そのため、子どもの頃から建築の設計には興味があり、特段の抵抗もなく建築を志していました。高校卒業後、九州大学の建築学科に進学。大学院まで一貫して設計を学んで、就職も建築設計志望でした。ゼネコンの設計部を志望したのですがご縁がなく…、どうしようか悩んでいる最中、大学の同期から日建設計が「都市計画」で人を探しているという話を聞き、早速応募してご縁をいただきました。大学の研究室で、九州の田舎のまちづくり再生計画を経験したこともあって、都市計画を全く知らなかったわけではなかったのですが、設計を志望していただけに、就職当初は都市計画の専門用語がわかりませんでした。専門用語が理解できないなんて恥ずかしくて誰にも言えないし、当時はインターネットもなかったので、会社の図書室に入りびたって、都市計画用語集を読んで、間に合わせの知識をインプットして仕事をしていた記憶があります(笑)。

 

■Q2.10代20代の頃に没頭していたことがあれば教えてください

小学校からずっとバスケットボールをやっていました。小学校の頃は全国大会に出場しましたし、高校3年生の頃は、関東の強豪校からスポーツ推薦を頂きました。でも、スポーツで身を立てるほどの自信は全くなく、学業優先で大学を、そして建築を選択しました。ただ、大学時代も趣味でバスケットを続けていましたし、日建設計でも、40歳くらいまでは日建大阪のバスケット部キャプテンをやっていました。

実は息子も小学6年生から高校までバスケットボールをしていましたので、中学1年頃まではコート練習に付き合ってもいました。そんな息子も今は大学院で建築を勉強しています。勧めたわけじゃないのに、子どもはへんなところばかりまねるもんですね(笑)。

 

■Q3.「都市計画」の面白さ、仕事も魅力をどういうところで感じますか?

まちづくりプロジェクトに、コンサルとして参画することを経験してきましたが、まちの方々がすごく仲良くなってスムーズに計画が進むことは極まれで、本気で喧嘩になることなど、関係者間の話がかみあわないことはとても多いです。そんな時に、我々コンサルは、各々の気持ちや考えを丁寧に読み取り、「翻訳者」になって調整していきます。時に直訳せず、意訳することで真意が伝わることもあります。自分自身はこうしたコンサルティングの役割や進捗プロセスがすごく楽しくて、一歩ずつステップが上がっていくことを肌感覚として感じられることにやりがいを感じます。何となく頼ってもらえることで、プロ意識も高まっていって、コンサルは商売でありながらも、まちづくりの当事者として参画した気分になれて、よかったなと思えるんですよね。まちづくり、都市開発の魅力、合意形成の妙、みたいなものに興味がある人にはこの仕事は向いていると思います。

一方で、会話の仕方を間違えたな、資料の書き方を間違えたな、などの後悔は何度もあります。今は現場から離れて、プロジェクトを俯瞰的に見る立場になり、若手の仕事の進め方をみて自分の経験上から少し先が見えることも多いです。「失敗することも大事」とは思いつつも、早い段階でアドバイスをして、いち早く火消しに回る、ということに注力して、若手の後悔を少なくする手伝いはできているかなあと思っています。

 

■Q4.仕事をする上で大切にしていることはありますか?

やっぱり、「共感」ですよね。どんなプロジェクトでも関係者の目的、目標はそれぞれです。そんな中で、関係者が同じ方向を向くことができる共通項をいかにつくるか?プロセスをどうデザインするか?というのが、僕らのようなコンサルの役割であり、存在意義だと思っています。共感を呼ぶ目的や目標を、誰に対して、何をつかって、どうやるか?、絵でみせたり、文章でみせたり…活動の根底に、「共感」が据えることが、とても大切だということです。規模の大小やプロジェクトの局面を問わず、どのようなプロジェクトでも同じだと思います。たぶん、「イノベーション」でも「共感」を真ん中に置くというのは同じだと思います。FCAJの目的工学のアプローチも、自分自身のまちづくりの経験と二重写しになることを多く感じます。「大目的」というのは、僕らのやるまちづくりの「コンセプト」や「ビジョン」のこと。それには必ず小目的や中目的がぶら下がっています。まちづくりに関わるみなさんの多くで、小目的や中目的は多少違っていても、「コンセプト(大目的)」を設定することによって、はじめて「共感」や一緒にやっていく共通項を見つけられることがよくあります。日常の仕事とイノベーション活動は、本当に同じアプローチをしているなと思います。

 

■Q5.若者にどんなことを期待していますか?

三塚)若手が強い目標を持って入社しても、会社の長い歴史と照らし合わせるとあわないこと、ズレてしまうこともあり、すり合わせるのが難しい…とおもっているうちに入社した時のモチベーションが下がっていくといったことをよく聞くのですが、そんな若手に大切にしてほしいことはありますか?

石川)まずは、すぐに諦めないこと、社会とか会社を見切らないことです。失敗しても、失敗から学んで、蓄積して、どう乗り越えていくかが経験になっていくと思います。駄目だからといわれて、すぐに辞めるのではなく、攻める方向を変えるとか、仲間を増やすとか、自身のモチベ―ションを少しでも行動に移していく様(さま)が大事です。したたかに進んで欲しいなと思います。

今の若手は、周りを味方につける術は僕たちの頃と比べて圧倒的に長けていると思います。同期や同年代どうしの水平な付き合いだけでなく、先輩や後輩を巻き込むというような垂直な付き合いも大事にしていけば、巻き込み力と情報収集力が高い若手に対して、僕らの世代は全く太刀打ちできなくなると思いますよ。

三塚)Z世代はSNSで繋がりあっているので「共感力」が高いことが知られていて、それが悪い方向のスパイラルになることもあります。逆に良いスパイラルになる、モチベーションを上に押し上げるような仕組みや制度があった方がよいと思うのですが、どうでしょうか?

石川)誰もが平等に使える、納得感のある仕組みをつくるのは難しいし、逆に会社に明確な仕組みや制度があったら、その枠の中でやらなくちゃいけないってことが制約になり、かえって窮屈だということになるかもしれません。万人に刺さる仕組みができたことで、結果的に誰にとってもつまらない仕組みになってしまうことも多いです。

詳細な仕組みではなく、ちょっとしたハードルをつくって、そのハードルを越えてきた人を応援するというものは割とつくりやすいと思います。若手の「共感力」と「行動力」を生かして、個々の実績をエビデンスにしながら、どのようなハードルの内容や高さを設定するとモチベーションを上に押し上げることができるかということを考えていくと上手くいくのではないかと思います。

 

■Q6.FCAJをどのように活用していきたいですか?

行政と民間の橋渡しをするという役割でFCAJの期待は大きいと思っています。そのためには、FCAJが、多くのイノベーション拠点についてのEMICリサーチをした結果を、ガイドラインのような一般解化して情報発信する、その先の着地点としては制度設計提案をするということができるとよいなと考えています。民間ができること、やりたいことと、行政がやらなくてはいけないことなど、様々な関係者の立場を理解して、イノベーションのための具体的な仕組みとして提案する旗振り役をするようなイメージです。

そうすると、企業から提供してもらった情報を基にイノベーションを興し、企業のフィールド拡張につなげられるというプルーラルセクターとしての本来の役割が担えるのではないでしょうか。そのための地道なコンテンツづくりや、課題提供の必要があれば惜しみなく力を使っていきたいと思います。