FCAJ interview12 齋藤敦子さん

■Q1. 小さい頃はどんな子どもでしたか?

 デザインや絵は子どもの頃から好きでした。アートとかデザインの仕事がしたいと漠然とした思いがありました。妄想をするのも好きで…、例えば星をみながら「今見えているあの星の光は、何百年前に光ったやつだろう…?」とか。少しずつ知識が増える中で、日常の出来事と知識を結び付けてあれこれ考えるのが好きでした。旅も好きでした。小学生の頃、うちでは修学旅行とは別に一人旅に出ていいという制度があって。地元新潟から船で北海道を一周するツアーに参加しました。フェリー乗り場で親に「さようなら、いってきます!」と、船から手を振った記憶が残っています。大学は美術大学に進学し、立体デザイン学科でモノから空間まで、広くデザインを学びました。就職先は、美術系か、建築設計のインテリアか、家具をつくるプロダクトデザイナー、というのが普通の選択肢で、オフィスのデザインは地味に思われていた頃でした。人がやらないことをしたい、と思いオフィス設計の道へ。人間の行動や働く場所にも興味があったからです。当時は、バブル崩壊直後でしたが、まだどんどんオフィスビルがつくられて、オフィス設計は需要がある中でキャリアをスタートしました。入社してみると、周りは「デザインしたい」人が多かったけど、自分は「オフィス」とか「住む」とか、それぞれ違うビルディングタイプがあることに疑問を感じました。家で朝起きて、1時間かけて通勤して、オフィスで8時間いて、週末は全然違うところで遊ぶ、ということに違和感があったというか。素朴に「オフィスってこのままなのかな?」と考えながら仕事をしていました。そうしているうちに、会社の中に「もっと人間や社会、未来のことを考える」という視点の新規事業部門が立ち上がりました。まさに「きたきた!」という感じで、FA制度を使って異動し、紺野先生の提唱する新しい場の概念に出逢っていくことになりました。

■Q2.「場」に関することに関わっていった経緯を教えてください

2000年代になってから、「新しい働き方」を求めて「新しい場」が欲しいというニーズが急速に増えていきました。KOKUYOにも、場をつくりたいという相談が持ちかけられるのですが、誰も経験したことのない「新しい場」をつくるのはとても難しい。オフィス設計の専門家…のはずの自分の中に「専門家ってなんだ?」という気持ちがわいてきました。

仕事で「場」を設計する中で、原体験になっている経験があります。施主からの希望で、人がワイワイ集まるように…と、オフィスの真ん中にコーヒーマシンを置いて、ピクニック場みたいな床にして、やぐらを組んで、素敵な家具を置いてみたりして…と設計した、一見ステキなオフィスが、実際に観察するとうまく使われていないんです。社員にヒアリングをしてみると、「サボってると思われるから使えない」といった意見がでてきました。ただ見た目がカッコよくて、素敵なだけではいけない。なぜそういう場所をつくりたいのか?から設計しないと「場」は活きない、と痛烈に感じました。

そういった経験を重ねていた頃、紺野先生から「場の研究会」のお誘いがあり、最初から参画しました。この研究会がFCAJの前身にあたります。たまたまだと思いますが、当初のメンバーはみごとに異業種の集まりでした。いろんな視点を持って集まった人たちが、教える教えられるの一方方向ではなく、みんながフラットに学びあう形ではじまっていきました。

■Q3.FCAJの他にもいくつもの社外活動に参加しておられますが、会社にはどう説明しているんですか?

KOKUYOでの仕事で、オフィスや場のリサーチをしているので、世界的なトレンドや、どんな団体がどういう活動をして社会的インパクトを出しているか?は掴んでいます。その中で「ゴールに向かって違う方向から登る人たちが、どこかで出会うと上り方が早くなる」という感覚を持つようになりました。例えば、建築と医学とか、一見違うように見える分野が、サステナビリティやSDGsという広い視点で見たとき、つながりがあって、そこが解決の糸口になる感覚です。

 だから、会社に短期的な利益をもたらすわけではなさそうにみえる人達との関わりが必要だ、と確信しています。会社には、「将来的に会社にいいことがあるらしい、いや、あるに違いない!」…と説明をして、社外活動への参加の許可を得てきました。まあ、許可というよりも実験というほうが近いかもしれません。私の場合、KOKUYOという会社の方向と、自分の方向がそんなにぶれていないのもポイントです。例えばFCAJは「社会」を捉えています。自分の中には利益を追求する「企業」的視点があるけれど、FCAJメンバーの方々と「社会」の視点で議論を進めていっても、あながち根っこは違わない。FCAJに限らず外部組織で活動すると、そういった様々な視点を持つことができ、自分の立ち位置ややりたいことを考えるのに役立ちます。KOKUYOの中には、「ヨコク研究所」【参考】https://yokoku.kokuyo.co.jp/という、現業とは違うことやっている人もいます。どんな会社にも、公式・非公式でもそういう人はいると思います。会社としてやらなければいけない仕事はありますが、チャンネルをたくさんもつことで、やんわり自分で耕すうちに、自分が社内でやれることもすこしずつ広がっていきました。社内にロールモデルなどはいなかったけれど、ここまでくると会社の中でも、「敦子さんだからね」と何となく認めてもらえることも増えました。

 FCAJの活動は、完全にボランティアの社外活動、ではなく、会社の目標にもFCAJの活動を書いて、会社へフィードバックしてやっています。「企業」的視点からみると、すぐに「それでいくら儲かる?」となりがちですが、長期的・社会的な視点からアイデアを生み出すことは、会社の将来には不可欠です。だから、よくコミュニケーションをとるようにしています。

■Q4.本当に思うことを言える場づくりとはなんでしょうか。つくっていてポイントだと思うことってありますか?

 FCAJでは、肩書を外して語り合える場をつくっています。参加するメンバーがだんだん慣れてきて、「FCAJの場なら言える」と思ってくださる人が多くなってきました。個人の思いとありたい社会像、そのために会社は何をすべきかというシナリオも一緒に描けるんです。FCAJでは互いの会社のことを本気で考えたり、いろいろなアイデアが飛び交います。でも組織に戻ると、組織の理論やヒエラルキーに縛られてしまう。ただ、だんだん組織外のフラットな場で議論した「温度感」や「社会感覚」みたいなものの心地よさを実感してくだされば、会社の中で恐る恐る言ってみる、みたいなことができるようになるんではないかなと思います。人によっては「仕事」といえば会社員という肩書一本という人もまだまだ多いです。FCAJのような社外の場に行っても会社員という肩書を外せないと、絶対に面白くなくなってしまう。「仕事」の中にもいくつかの自分の顔を持てるようになるといい。曖昧な自分の置き方、在り方がとても大切です。ただ、私自身も今でも試行錯誤しています。若い世代の人が外部活動に来たくなるように、「大変そう」と思われないようにすることも大事にしています。

■Q5.FCAJの若手へのメッセージをお願いします。

 私自身の仕事をする中でのバリューや目的は、「もっと住みやすい」「学びやすい」「居心地がいい」という「場」をつくるデザインをしたい、というところにあります。個人、企業、団体でやる…など選択肢がある中で、自分は「企業」でやるのも面白いし、FCAJのように外部の団体で、NPOなどでやる面白さもあると思っています。
 今、SDM(システムデザインマネジメント)の大学院にも通って、修士が終わり博士課程に進んでいます。大学院へ進学したのは、「学び直し」ではなくて、ミライをつくる研究を突き詰めたかったから。会社員として、会社の目標の下だけで生きることにもともと違和感があったんです。また、国の調査で「産学連携はうまくいかない」と言われるけど、なぜうまくいかないのか?じゃあ、自分がそちらに身を置いてやってみよう、と思ったからです。やってみないとわからないから、最初は気楽にはじめてみます。やっぱり大変だった‥って事も多いですが、いろんな自分がいることに気付いて、ぜひみなさんにも何か新しい体験をして欲しいです。
 それから、もっとたくさん話して欲しいと思います。最近は、若手のメンバーをワークショップに巻き込んで、その時々どう感じたか、よく意見を聞くようにしています。一般的に40代後半~50代くらいが役職も高いから発言力が強くて、その価値観でまとまろうとすることがよくあります。でも、20代や高校生の「今」への感覚はとても大事です。若いから、経験が浅いからと思わず、だからこその違和感を大事してください。私は、そういう話がしやすい場をつくっていきたいです。